チョロQバス博士!? 実はバス研究の第一人者 交通ジャーナリスト・鈴木文彦さん
チョロQバス博士!? 実はバス研究の第一人者 交通ジャーナリスト・鈴木文彦さん
子どもたちに大人気のクルマのおもちゃ「チョロQ」にも、さまざまなバス会社のバスをモデルとした「バスシリーズ」があります。しかし、そんなチョロQバスの中には、バス会社や特定イベントでの記念品としてつくられ、一般にはなかなか手に入らない「レアもの」のチョロQバスが数多く存在するのをご存じでしょうか?
今回ご紹介する鈴木文彦さんの自宅には、珍しいチョロQバスが数多くそろっています。鈴木さんのご自宅にある「チョロQバス」を集めてみると、日本全国のいろんなバスが、47都道府県すべて欠けることなく勢ぞろいします。「バスの日イベント」などの会場でも、そんな鈴木さんのコレクションが飾られて、子どもたちの人気の的となっています。
しかし、鈴木さんは、いわゆるチョロQバスの「コレクター」ではありません。交通ジャーナリスト、地域交通アドバイザーとして活躍する「交通研究」の第一人者なのです。
■チョロQバスは、バスの取材や研究にかかわる資料の一部です
- 鈴木さんの自宅に並ぶチョロQバス
はじめに言っておきたいのですが、私はいわゆるコレクターではありません。取材や研究で、バスに関する資材や資料を集めているうちに、自然に集まったというのが本当です。
アドバイザーとして地域を訪れたり、バス会社などの方々とお付き合いするうちに、記念品で作られたものをいただくこともあります。ですから、行った先の窓口などで売っていれば購入することはありますが、オークションなどで売ったり、買ったりするということは一切ありません。
- 珍しいバス会社の資料の一部
チョロQ以外でも、珍しい資料を拝見する機会があります。バス会社の統合等の話がある時に、会社の古い資料がたくさんあるので見に来てほしい、との依頼があるのです。バス研究の視点で判断すれば、そのような貴重な資料は、バス会社の方々が永続的に保管・管理されるのが望ましいことですが、保管場所や保管方法などさまざまな課題があるために、なかなか現実には難しいことです。
このため、現場に伺って膨大な資料を整理しながら、そのうちのいくつかを研究資料として引き取ることもあります。
■バス研究の第一人者としての歩みは『鉄道ジャーナル』の記事がきっかけ
- 鈴木さんの著作の一部
1983年ごろから鉄道関係のライターとして『鉄道ジャーナル』誌で活動を始めました。バスの記事を書くようになったのはその『鉄道ジャーナル』で1984年ごろにバスに関する記事を書いてもらえないか、と依頼されたのがきっかけで、1985年からは同誌に「バスコーナー」が発足しました。
そのような記事がきっかけで、バスファンの方々との交流も自然と増えていきました。日本バス友の会という、バスファンの集まる団体のまとめ役を担ったのも、そのような中でのことです。
もともと大学から大学院にかけて、私は地方バスを中心に「地域交通」に関して研究しておりました*1。交通ジャーナリストとして仕事を始めてからは、バス会社を個別に紹介するハンドブックをはじめ、個人での著作もいくつか手がけています。
[*1:鈴木さんは、東北大学理学部を卒業後、東京学芸大学の大学院で「交通地理学」の研究に従事]
■バスの資料だけでなく、バスそのものを後世に残したい! NPOのバス保存活動
- 保存振興委員会で保存・管理されているボンネットバス
バスの取材、研究を通して、バスの歴史を現物できちんと残し、後世に伝えて行かなければならないと感じ、バス車両の動態保存に取り組みました。バスを保存するためには、車体の整備も必要です。事業として運営しなければならないバス会社では、現状では使わない車体の保存・管理を行うのは困難ですから、その車体を譲り受けて、バスファンの有志で、バスを保存しようという活動も行っています。
日本バス友の会で、1960年代〜80年代にかけて製造されたバスのうち15台を当時の姿で保存しようと活動してきましたが、今はNPOを立ち上げて、バスの保存活動に取り組んでいます*2。
[*2:特定非営利法人日本バス文化保存振興委員会(茨城県つくば市。理事長:佐藤滋/副理事長:鈴木文彦・高島俊和]
インタビュー後記
鈴木さんのバスを愛する気持ちが、ひしひしと伝わってくるインタビューでした。
公共交通機関の役割を担ってきた「バス」の歴史や文化を後世に伝えるためにも、鈴木さんのような「バスを愛する」個人の情熱こそが、貴重で、大切なのではないでしょうか。
鈴木 文彦(すずき ふみひこ)プロフィール
1956年(昭和31年)山梨県生まれ。東北大学理学部を経て、東京学芸大学大学院(地理学)を修了。フリーの交通ジャーナリストとして雑誌『鉄道ジャーナル』などにレギュラーとして執筆するほか、「運輸と経済」「バスジャパン・ハンドブック」「JAMAGAZINE」などにバス・鉄道に関する論文・取材記事多数。
近年は地方自治体やバス事業者におけるアドバイザーや講演活動も行なうほか、国土交通省の運輸関連の委員会委員も務める。NPO法人日本バス文化保存振興委員会副理事長。
著書に『新版・高速バス大百科』『新版 日本バス年代記』『路線バスの現在・未来』『バス車両の進化を辿(たど)る』『多様化するバス車両』ほか。